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むかご

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霜月
すっかり寒くなってはりきっておしゃれができる日も増えた
遠くに見える山が色付いている
緑というのは、葉緑体の色であって
木の葉の本当の色は黄色であることが多いらしい
紅葉するのは葉緑体が光合成をやめ
葉の栄養分を幹に回収するからだそうだ
日照が短く、わりに合わないから
光合成事業は廃業ということらしい
そんな時期、むかごを見かけることがある
山芋のつるの葉っぱの根元にできる球芽のことで
いわば、山芋の赤ちゃんのようなもの
完熟するとぽろぽろと地面におちて
やがて芽を出して、根を張り
山芋になる
いつもと同じように米を研ぎ
線のところきっちりまで水を灌ぐ
むかごをひとつかみくらい放り込み
塩をふたつまみ、ぱらぱらと
味噌汁やかぶのなますを作りながら
炊きあがりを待つ
山芋といえば、私の家族の風景を思い出す
お中元の時期になると毎年
当時小学生低学年の私の身長の
倍はあるであろう化粧箱が庭先に届く
立派な自然薯だ
幼い私には送り主が誰なのかわからない
日曜日の早朝、離れに住む祖父に会いに行く
居間の扉を開けると、大きなすり鉢とすりこぎ
本枯節とカンナと一体になった木箱の削り器が置いてある
せっせと鰹節を削り、丁寧に出汁を取る
調味は地元の白だし
金色のきれいな出汁ができる
自然薯の皮をつかめるだけ残して、剥いていく
すり鉢にくるぐると擦り付けると
餅なんじゃないかと思うくらいの
弾力のあるとろろができる
お玉で出汁を少しずづ垂らしながら
絶えず混ぜていく
味と滑らかさを見ながら
無心ですりこぎを回す
疲れてくると、祖父に代わり
ひたすら擦り続ける
ごりごり、ぐるぐる
そうしてできたとろろを
本宅に慎重に運び
祖父母と両親と兄弟と食べる
青のりを散らして食べたり
白米にかけて食べたりする
毎年自然薯が届くと、
祖父と一緒にとろろを作り家族ふるまう
そんな使命を誇りに思っていたし
朝からみんなで朝食なんて、
正月くらいなものだったので
とてもうれしく思っていた
家族とむかごごはんを食べる
少し塩味のする、むかごごはんを口に運ぶと
薄い皮がぷちっとやぶれ、ほくほくの食感
芋の甘みと土の香りを感じて
ふかふかの地面に寝転がっている気分になる
疲れた時に食べたいようなそんなごはんだ
少しだけ、仏壇に供えておいた
祖父はもうこの世にはいないけれど
美味しいとはなにかを教えてくれた
そして、誰かにご飯を作るとはどういうことかも
曾祖父が仕事の仕入れに向かった先で急逝し
仕事と子育てを女手一つに引き受けた曾祖母のために
祖父は幼いながらも料理を作っていたらしい
大切な母親を労わるための料理
それを私は教わった
いつもキッチンに立っているときに思う
”大切な人に食べてほしい”
なるべく新鮮な旬な食材を選び
調味料を厳選して、丁寧に料理する
そして自然に感謝する
そして、料理をするたび
あの人は元気にしてるかなと
思いに耽る